ペットショップ、ペットホテル、ドッグトレーニング、動物カフェ── 動物を扱うビジネスを東京都で始めるなら、「第一種動物取扱業」の登録は必須です。
しかし、この登録申請は「書類を出せば通る」ほど単純ではありません。用途地域の制限、施設基準の遵守、動物取扱責任者の要件など、クリアすべき法的ハードルが数多く存在します。本稿では、行政書士として多数の申請実務に携わってきた経験から、開業準備から登録取得、そして事業継続までの全工程を、東京都の基準に基づき徹底解説いたします。
第一種動物取扱業とは
制度の目的
「第一種動物取扱業」とは、動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護管理法)第10条に基づき、営利目的で反復継続して動物を取り扱う事業について、都道府県知事等の登録を受けなければならない制度です。
この制度の目的は:
- 動物の適正な取扱いの確保
- 動物の苦痛の防止
- 動物の健康及び安全の保持
- 利用者(消費者)の保護
にあります。

対象となる7つの業種
| 業種 | 具体的な事業内容 |
|---|---|
| 販売 | ペットショップ、ブリーダー、インターネット通販、ペットオークション代行 |
| 保管 | ペットホテル、ペットシッター(事業所で預かる場合)、美容業(預かりを伴う場合) |
| 貸出 | ペットレンタル、動物プロダクション、乗馬クラブ、動物派遣サービス |
| 訓練 | ドッグトレーニング、しつけ教室、訓練所、出張訓練(預かりを伴う場合) |
| 展示 | 動物カフェ、ふれあい動物園、移動動物園、撮影会、動物ショー |
| 競りあっせん | 動物オークションの開催・運営、せり市場の運営 |
| 譲受飼養 | 老犬・老猫ホーム、有料での終生飼養サービス |
対象動物
哺乳類、鳥類、爬虫類が対象です (魚類、両生類、昆虫類は対象外)。
登録が必要なケース・不要なケース
登録が必要となる3つの条件
以下のすべてに該当する場合、登録が必要です:
- 営利性:対価を得て事業を行う(有料)
- 反復継続性:一時的ではなく、継続的に事業を行う
- 対象動物の取扱い:哺乳類、鳥類、爬虫類を扱う
登録が不要となる主なケース
| 対象外となる事業・活動 | 理由 |
|---|---|
| 畜産農業(牧場、養鶏場等) | 家畜伝染病予防法等の他法令で規制されるため |
| 実験動物施設 | 営利目的でなく、研究・教育目的のため |
| 動物病院での預かり | 診療・入院等、獣医療に付随する一時預かりは獣医療の一環 |
| 非営利の保護活動 | ボランティアベースの動物保護(※有償譲渡等は要注意) |
| 魚類・両生類・昆虫類のみ | 対象動物に該当しないため |
| ペットシッター(飼い主宅訪問のみ) | 事業所での預かりを伴わない場合は「保管」に該当しない |
一見、登録不要と思えても、実態として「営利・反復継続」に該当すれば登録が必要になります。判断に迷う場合は、必ず所轄の動物愛護相談センターまたは行政書士にご相談ください。
開業前に確認すべき3つの重大リスク
登録申請の前に、以下の3点を必ず確認してください。これらは「申請すれば何とかなる」レベルの問題ではなく、事業計画そのものの根幹に関わります。
リスク①:用途地域による立地制限(建築基準法)
これが最大のリスクです。
動物取扱業の施設は、建築基準法上「畜舎」または類似施設とみなされ、用途地域による厳格な立地制限を受けます。
原則として開業できない地域
- 第一種低層住居専用地域
- 第二種低層住居専用地域
- 第一種中高層住居専用地域
- 第二種中高層住居専用地域
これらの「住居専用地域」では、住環境保護の観点から、騒音・臭気を伴う畜舎の設置は原則として認められません。

開業可能性がある地域
- 第一種住居地域、第二種住居地域(一定規模以下なら可能性あり)
- 準住居地域
- 近隣商業地域
- 商業地域
- 準工業地域
- 工業地域
ただし、自治体の運用や事業の規模・内容によって判断が異なります。
リスク②:建物の使用権原(オーナーの承諾)
賃貸物件で開業する場合、「動物取扱業を行うこと」について、オーナー(または管理会社)の正式な書面承諾が必要です。
よくある失敗パターン
- 「ペット可物件だから大丈夫」 → 「ペット飼育可」と「動物取扱業可」は全く別物です。
- 口頭での了承のみ → 申請時に「使用承諾書」の提出が求められます。
- 契約書に記載がない → 賃貸借契約書に「動物取扱業を行う」旨が明記されていない場合、別途承諾書が必要です。
必要な対応
- 契約前に、動物取扱業を行う旨を明確に伝える
- 使用承諾書(オーナーの署名・押印入り)を取得
- 可能であれば、賃貸借契約書の特約に明記
リスク③:動物取扱責任者の要件充足
事業所ごとに、常勤・専任の「動物取扱責任者」を選任する必要があります。
資格要件(いずれか1つを満たすこと)
- 獣医師免許または愛玩動物看護師免許を有する
- 実務経験1年以上 + 動物関係の教育機関を卒業
- 実務経験1年以上 + 公平性・専門性のある団体が行う研修を修了
よくある問題
- 「実務経験1年」の証明書類(在職証明書等)が不十分
- 実務経験の内容が、申請する業種と異なる
- 教育機関・研修が認められる要件を満たしていない
責任者候補の資格を事前に動物愛護相談センターで確認し、不足があれば研修受講や実務経験の積み増しを行ってください。
申請に必要な書類一覧(東京都の場合)
共通書類
| No. | 書類名 | 備考 |
|---|---|---|
| 1 | 第一種動物取扱業登録申請書(様式第1号) | 法人の場合は登記事項証明書を添付 |
| 2 | 動物取扱業の実施の方法(様式第1別記) | 業種ごとに記載 |
| 3 | 欠格事由に該当しない旨の書類 | 法第12条第1項各号の要件 |
| 4 | 動物取扱責任者の資格証明書類 | 免許証、卒業証明書、実務経験証明書、研修修了証等 |
| 5 | 事業所及び飼養施設の平面図 | 縮尺、寸法、設備配置を明記 |
| 6 | 事業所の付近見取図 | 最寄り駅や主要道路からの位置関係 |
| 7 | 土地・建物の使用権原を証明する書類 | 賃貸借契約書の写し、使用承諾書、登記事項証明書等 |
| 8 | 手数料 | 15,000円/業種 |
法人の場合の追加書類
| No. | 書類名 | 備考 |
|---|---|---|
| 9 | 登記事項証明書(履歴事項全部証明書) | 発行から3ヶ月以内 |
| 10 | 役員等名簿 | 取締役、監査役等の氏名 |
犬猫等販売業者の場合の追加書類
| No. | 書類名 | 備考 |
|---|---|---|
| 11 | 犬猫等健康安全計画 | 様式あり |
申請から登録完了までの手続きの流れとタイムライン
窓口: 動物愛護相談センター(保健所)
- 施設の構造基準
- 用途地域の確認状況
- 動物取扱責任者の資格要件
- 必要書類の詳細
を担当者と確認します。この段階で問題が発覚すれば、物件選びからやり直すことも可能です。
↓ 1〜2週間
平面図の作成、使用承諾書の取得、実務経験証明書の手配など、時間がかかる作業が多数あります。
提出先: 動物愛護相談センター(保健所)
提出方法: 窓口持参(郵送不可)
持参物: 申請書類一式、手数料
↓ 1〜2週間
担当職員が事業所を訪問し、以下を確認します:
- 施設の面積、構造、設備
- 飼養環境の適正性
- 逸走防止措置
- 衛生管理体制
不適合があれば改善指導が入り、再検査となります。
↓ 1〜2週間
検査に合格後、登録証が交付されます。
登録証を受領して初めて、適法に営業を開始できます。

登録後の義務と研修制度
動物取扱責任者の研修受講
法的根拠: 動物愛護管理法 第22条の2 第2項
- 実施主体: 都道府県知事等(東京都の場合は動物愛護相談センター)
- 頻度: 法改正により「毎年1回以上」の文言は削除されましたが、多くの自治体では年1回の受講を指導・推奨しています。東京都も同様の運用です。
- 内容: 動物愛護管理法令、動物の飼養管理、人獣共通感染症等
- 受講料: 無料〜数千円程度(自治体により異なる)
未受講の場合: 改善勧告・命令の対象となり、最悪の場合、登録取消の可能性があります。
標識の掲示
登録証に記載された以下の情報を含む標識を、事業所の見やすい場所に掲示する義務があります:
- 氏名または名称
- 事業所の名称及び所在地
- 登録番号
- 登録年月日
- 有効期間の末日
- 動物取扱責任者の氏名
帳簿の作成・保存
動物の個体ごとの情報(種類、性別、生年月日、購入先、譲渡先等)を記録した帳簿を作成し、5年間保存する義務があります。
登録の更新
登録の有効期間は5年間です。有効期間満了の前に、更新申請(手数料15,000円/業種)を行う必要があります。
変更・廃止の届出
以下の事項に変更が生じた場合、30日以内に届出が必要です:
- 氏名、名称、住所
- 事業所の名称、所在地
- 動物取扱責任者の氏名
- 飼養施設の構造・規模
事業を廃止する場合も、30日以内に届出が必要です。
よくある質問(FAQ)
はい、個人でも法人でも登録可能です。ただし、個人の場合も、欠格事由(過去の行政処分歴等)の確認が行われます。
規模や頻度に関わらず、営利目的で反復継続して繁殖・販売を行う場合は登録が必要です。「小規模だから不要」という例外はありません。
はい。例えば、「販売」と「保管」の両方を行う場合には、両方の業種で登録が必要です。手数料も各業種につき15,000円ずつかかります。
いいえ、できません。 登録証が交付されるまでは、営業してはいけません。無登録営業は罰則の対象です(30万円以下の罰金)。
原則としてできません。 動物取扱責任者は「常勤・専任」であることが求められるため、複数事業所の兼任は認められません。各事業所ごとに専任の責任者が必要です。
動物愛護管理法違反となり、以下の罰則が科されます。
- 30万円以下の罰金(法第46条)
- 悪質な場合は、登録の拒否や営業停止命令
基本的な枠組みは全国共通ですが、手数料、必要書類の様式、施設基準の細かい運用などは自治体ごとに異なります。必ず所轄自治体(都道府県・政令指定都市・中核市)に確認してください。
飼い主の自宅を訪問してお世話をするだけなら、「保管」業には該当せず、登録は不要です。ただし、事業所に預かる場合は「保管」業として登録が必要になります。
はい、必要です。 インターネット販売であっても、事業所(動物の飼養施設を含む)を有する場合は「販売」業として登録が必要です。事業所の所在地を管轄する自治体に申請してください。